今日のテーマは医師が考える医療保険です。昨今、新聞やネット、CMなどで医療保険不要論をしばしば目にしますが、実際のところどうなのでしょうか。医療に携わって得た知識や、自分が実際に保険について勉強して得た知見を基に、民間の販売している医療保険の必要性について考察します。
前職では、自分が担当した患者さんの加入している保険関係の書類を記入するという仕事がたくさんありました。手術する患者さんのほとんどが民間の医療保険に加入しているんですね。正確なデータはわかりませんが、一説によるとニッポン人の医療保険の加入率は90%を超えています。子供からお年寄りまで含めたデータなので、大人だけに限定したら100%に近いかも知れません。ニッポン人は医療保険大好きなのです。
では、医師や保険販売員の医療保険加入率はどのくらいでしょうか。正確なデータはわかりませんが、一般のそれよりもかなり低いと思います。私自身も医療保険やガン保険には加入していませんし、加入していない医師を何人も知っています。また、保険の販売員も自社の医療保険には加入したがりません。保険とは、「万一起こった時に自分の貯蓄では対処できない、あるいは対処するには額が大きすぎる場合に備えて最小限加入するもの」なのです。どのような場合かというと、購入した家が地震や火事で住めなくなる、自動車で死亡事故を起こす、一家の大黒柱が若くして亡くなる、あるいは高度障害などで働けなくなる場合が想定されます。それぞれ対応するのが、火災保険(地震保険)、自動車保険(対人対物補償)、生命保険、収入保障保険です。
では、病気になることはどうでしょうか。多くの医師や保険の販売員は、「病気になって入院すること自体が自分の貯蓄だけで対処できないものではない」ということを知っているので、医療保険やガン保険に加入しないのです。では、貯蓄があまりないけど何十万円、何百万円も請求されたらどうすれば良いの?と思われるかもしれませんが、そのようなことはニッポンの医療ではありませんのでご心配には及びません。良いことかどうかは今後議論するとして、ニッポンは社会保障制度が非常に手厚いために、万が一にも高額な医療費が毎月かかるような事態にはならないようになっているのです。当然、保険会社も社員もそのことを熟知していますが、そのようなことは説明されませんし、パンフレットやホームページに掲載されることもありません。具体的にどのような制度があるかは、次回にご説明します。
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ニッポンの医療を考える4/医師が考える医療保険 前編
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