前回に引き続き、「医師が考える医療保険」の後編です。「ニッポンは社会保障制度が非常に手厚いために、万が一にも高額な医療費が毎月かかるような事態にはならない」と前回ご説明しましたが、どのような社会保障制度があるか具体的に見ていきましょう。
1.国民皆保険制度
窓口負担が3割になります。75歳以上の後期高齢者は基本的に1割になります。その他、所得に応じて減免措置があります。
2.高額療養費制度
健康保険で3割まで減額されてもなお自己負担が高い場合、還付されます。所得に応じて増減しますが、この制度によってどんなに高額な医療費を請求されても、保険診療の場合、月々の自己負担は上限で8万円程になります。低所得者に関しては3万円程度が上限となります。
3.身体障害者、更生医療による自己負担の軽減
自治体にもよりますが、例えば心臓弁膜症で弁置換手術をした場合や、腎不全で人工透析をしている場合、内部障害1級に認定され、医療費は一生涯無料、もしくはほとんどかからなくなる上、交通機関や公共施設の割引、税の優遇措置も受けられます。もちろん、心臓の手術を受けても、腎不全になっても社会復帰されて健常者と同じように仕事・生活されている方がたくさんいらっしゃいます。
その他、以下のような様々な給付金もあります。
1.傷病手当給付金
サラリーマンの場合、病気やケガなどで休職した場合、1年6か月を限度に標準報酬月額の2/3が毎月支給されます。これは大きいと思います。現在、入院日数はどんどん短縮しており、心臓手術しても癌で手術しても2週間程度で退院するのが一般的で、数か月の入院という方は極めて稀です。しかし、万一入院が長引いて休職期間が長期化しても収入の心配はあまり必要ないですね。それでも休職中の収入減を心配して医療保険に入る人もいますが、入るべき保険は収入保障保険ですね。
2.障害年金
癌や病気で働くことができなくなった場合、年金が支給されます。
3.介護保険
40歳以上の場合、末期癌などで要介護状態となっても介護サービスが受けられます。
4.健康保険組合からの給付金
加入している保険組合によっては自己負担金の一部がさらに給付金として戻ってきます。
上記のように、ニッポン人は既に、国民皆保険・皆年金などによって、非常に手厚い保障で元々守られているのです。従って、多くの人にとって病気になってかかる治療費は人生において大きなリスクにはならないのです。しかし、保険会社の営業員は当然このようなことは説明してくれませんよね。医療保険はドル箱商品だからです。
一般的な医療保険の掛け金は年齢や保障にもよりますが、月に5000-10000円程ではないでしょうか。掛け金が年間5万円としても10年間で50万円です。さて、10年間にいったい何回入院すれば掛け金が回収できるでしょうか。掛け金分を貯蓄に回したり、病気で働けなくなった場合に備えて収入保障保険に回した方がよほど合理的な選択です。もうお分かりかと思いますが、医療保険は費用対効果がとても悪い保険なのです。だから、それを知っている医師も保険の営業員も加入していない人が多いのです。少なくてもニッポン人の大半が加入しなければならないような商品ではないはずです。
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ニッポンの医療を考える4/医師が考える医療保険 後編
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