今回のテーマは心臓血管外科医の仕事です。彼らがこなしている膨大な量の仕事の中で、実は医師でなくてもできる仕事はたくさんあるのです。以前に比べれば、電子化して仕事の効率が上がったり、病棟クラークなどのコメディカルスタッフが徐々に増えてきて、医師の負担を減らす方向に向かってはいますが、未だに「なんでこの仕事を夜中にしなければならないのだろう」と疑問に思う仕事が多いのも事実です。
例えば、とても重要な仕事なのだけど、何日家に帰っていなくても、何時間連続寝ていなくても書かなければいけない書類というのがたくさんあります。身体障害者認定関係の書類はその1つです。心臓血管外科手術を受けると、例えば人工弁置換術やペースメーカー植え込み術では心臓機能障害1級、冠動脈バイパス術、弁形成術、弓部大動脈人工血管置換術や弓部大動脈ステントグラフト内挿術では心臓機能障害3級に認定されます。
心臓・大血管手術は、 天才的な外科医が1人いても手術はできません。最低2人の助手、複数の麻酔科医、長時間手術を介助できる複数の看護師、外回り看護師、人工心肺を動かせる複数の臨床工学士、集中治療室と24時間体制でそれを管理する若手心臓外科医と看護師、循環器内科医、いつでもコンサルトできる感染症専門医・呼吸器専門医・脳神経外科医・腎臓内科医・糖尿病内科医・耳鼻科医・歯科口腔外科医、病棟スタッフ、リハビリスタッフ(PT、OT、ST)、管理栄養士、薬剤師、そして24時間365日この体制を維持できるだけのスタッフと施設がないとできません。また、人工弁や人工血管などの人工材料、人工心肺やその消耗品が高額な輸入品に頼らざるを得ないのです。当然、莫大な経費がかかります。
心臓大血管手術は点数自体が高く、治療全体の点数も高いため、入院治療費は数百万円になることが普通です。もちろん、高額療養費制度があるため、自己負担は数万円になりますが、身体障害者認定されるとその自己負担もほとんどかからなくなります。この制度自体は、万一のことがあっても治療費が払えないから手術が受けられない(=生きらなれない)ということがないため、良い制度なのでしょう。もちろん、「喫煙による動脈硬化が原因で狭心症や心筋梗塞、大動脈解離などを発症したのに、どうして数百万円の治療費を非喫煙者が負担するのだろう」という意見をお持ちの方のもいるとは思います。実際、100万円、200万円レベルの問題ではなく、毎年数兆円単位を借金でまかないながら、文字通り臭いものに蓋をして手をつけないで何十年も議論しないで来てしまった問題なのです。諸外国ではあり得ないことです。ただ、昨今のニッポン国の財政状況を鑑みれば、負担が不公平で誰にでも手厚い社会保障制度が、今後も現状のまま維持することは不可能なのは明白です。いずれ受益者負担の原則に基づいて是正せざるを得ない状況になると思います。今日はこのくらいにしておきましょう。
次回に続きます。
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ニッポンの医療を考える5/心臓血管外科医の仕事 心臓機能障害編①
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